大天使に聖なる口づけを
「ディオ! あなたね……」
その笑顔にもだまされることなく、抗議の叫びを上げようとしたエミリアだったが、ふいに背後から響いた声に、言葉はおろか体までもが凍りついた。

「急な呼びかけだったのに、こんなに多くの人が応じてくれたのか……ありがたいことだ……!」
頭上から降ってくる落ち着いた穏やかな声。

エミリアはドキンドキンと高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりと背後に立つ声の主をふり返った。

そこに立っていたのは、深緑色の制服に身を包んだ、涼しげな目元の近衛騎士――エミリアの憧れのランドルフ――その人だった。

短めに刈りこまれたこげ茶色の髪に、灰青色の理知的な瞳。
広い肩幅も、がっしりとした体型も、年齢はそう変わらないとこいうのに、アウレディオよりもはるかに大人っぽく男らしい。

(ああ……ランドルフ様って、間近で見るとこんなに背が高かったんだ……)
日頃小さな額絵にそうしていたように、まじまじと彼の姿を見てしまうエミリアを、フィオナが肘でつついた。

(はっ! 私ったら、いくらなんでもこんなにじろじろ見るなんて……!)
自分の無意識の行動に恥じ入って、エミリアは首筋まで真っ赤になった。
穴があった入りたいとはまさにこんな気分である。
一気に脈拍が急上昇する。
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