大天使に聖なる口づけを
顔を真っ赤にしたアウレディオは、
「お、俺ちょっと……」
といつになく大慌てで食堂を出ていった。

その様子にエミリアは改めて、
(本当にディオは、お菓子のこと、なんにも疑ってなかったんだ……)
と安心した。
しかし――

(やっぱりフィオナが言ったとおり、お菓子のせいでランドルフ様の態度がおかしかったんじゃない! 明日からどんな顔で会ったらいいの? これじゃあわざと一服盛ったようなものよ……)

頭を抱えてテーブルに突っ伏したエミリアに、母はそっと耳打ちする。
「それでエミリアの好きな人の反応は? エミリアのこと好きになっちゃったみたい?」

あきらかに面白がってるふうの口調に、さすがにエミリアも声を荒げた。
「お母さん!」

母は慌てて乗り出していた体をひっこめる。
瞳に薄っすらと涙まで浮かべて、実にしおらしい顔になった。

その顔を見ているとエミリアは気が咎めて、それ以上は強いことが言えない。

(美人って得ね……)

改めてエミリアが大きなため息をついたところに、庭にある井戸の水で乱暴に顔を洗ったらしいアウレディオが、ちょうど食堂に帰ってきた。
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