大天使に聖なる口づけを
「えっ? エミリアったら、今まで何も知らないで『あれ』を作ってたの?」
目を丸くして問いかける母に、エミリアは眉を寄せずにはいられない。

「何のこと?」

「エミリアの作るお菓子って、小さい頃に私が作ってあげてたのを再現してるんでしょ?」
天使そのものの微笑みに、エミリアはこっくりと頷いた。

「うんそうだよ。ディオにも手伝ってもらって、何年もかかってああでもないこうでもないって工夫したから、結構お母さんの味に近くなってると思うんだけど……」

母は満足そうにエミリアとアウレディオの顔を見比べた。
そして悪戯っぽく片目を瞑る。

「そうね。とってもよくできてると思うわ。効き目はお母さんのより強そう……」

「効き目?」
黙々と食事を続けていたアウレディオが、いつの間に平らげたのか、空になったお皿を自分の前に山のように積み重ねながら、母に向かって視線を上げた。

「そう、私が小さなあなたたちに作ってあげてたのは、『天使のお菓子』。人の心を幸せにする食べ物よ。でも効き過ぎると魔女の惚れ薬より強力だったりして……ふふふっ」

ガターン。

エミリアが悲鳴をあげるより先に、アウレディオが椅子を蹴り倒して立ち上がった。
エミリアも母も、一瞬驚いてそんなアウレディオに視線を集める。
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