大天使に聖なる口づけを
エミリアがその日の午前の三度の見回りを滞りなく済ませた頃、リンデンの街にお昼を告げる鐘が鳴り響いた。

景色の良いところで弁当を食べようと、フィオナとアウレディオと共に、お城の周りを歩き回っていたエミリアは、大きな木の木陰に、深緑の制服を着たこげ茶色の髪の人物を見つけた。
ドキリと鳴った胸を押さえて、息を整え、決心を固める。

「ランドルフ様!」
努めて明るく呼びかけた声に、ランドルフは座ったままこちらをふり返った。

「ああ。エミリオ。フィリス。アウレディオ。君たちか……」
逆光になった太陽が眩しかったらしく、目を細めて笑った表情が普通どおりで、エミリアはホッとひと安心する。

(ちょっと偽名だけど、ランドルフ様が私の名前を呼んでくれる! それってかなり凄いことだよね!)
持ち前の前向きさも、どうやら取り戻せてきた。
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