あの夏に見たあの町で


「面が割れてないから恋人設定な。専務って呼ぶなよ?」




手を引いて顔を近付けて言う専務はイタズラに目を輝かせる少年のものだった





「ちょっ専...はじめさん」



専務と言いそうになって専務の目に殺されるかと思った




「『さく』で呼び捨てでいい。『はじめ』だとバレる可能性があるから」



悲しげに微笑む専務に胸の奥が疼く




「...さく」



仕事だ。専務を呼び捨てにするのも仕事だ



心の中で必死に言い聞かせる





「んー?」




専務は満足気に首を傾げる




「手を繋ぐ必要はないのでは...」




繋がれた手が熱い




「なら肩抱こうか?」



意地悪な笑みを浮かべる専務に「結構です」と言い切る






手は





その人が歩んできた人生を物語る






顔もスタイルもそっくりでも





手だけは違う





SEの仕事をしていた新の手は優しくて繊細だった





今、私の手を握る手は





新の手よりも少しゴツくて、私の手をがっしりと握る力強さがある












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