あの夏に見たあの町で
“挙げだしたらキリがなさそうだが、金取ってる割に『気が利かない』の一言に尽きるな”
専務の言葉に苦笑して頷く
サービス業で『気が利かない』は評価を下げる大きな要因になる
“あの人を投入するか”
天を仰ぎながら呟く専務
『あの人』とはこのホテルのように改善が必要な現場を転々と回り指導しているスーパーバイザー(通称SV)で専務の接客ノウハウの師匠だと食事中の会話に出てきた
“出るか”
とカップに残っていたコーヒーを飲み干して、席を立つ
お会計は専務が当然のようにレジのあるカウンターて向かったので、少し離れた所で立って待っていた
私も払うべきか?とも考えたけど、今日は拉致されたわけだし、昨日のこともあるし、専務だし...ご馳走になろうと決めた
「窓側の女性にクッションと膝掛けを」
お会計を済ませた専務が指示をするのが聞こえた
口調からは専務だと明かしたのかは不明だが、目の前にいるお客様一人一人を大切にする姿はとても素敵だし、尊敬もする
“行こう”と手を出してきたので、正体は明かしてないようだ