憧れのアナタと大嫌いなアイツ


「な、なんだよ・・・」

腕の中で急におとなしくなった私に
困惑した柊の声が降る

「急に可愛いの反則」

「へ?」

驚いて見上げると
柊の目が大きく開かれた

「煽ってんのか?ここで抱くぞ」

「・・・っ?は?何?え?」

見上げただけなのに突然の窮地

「誰にも見せたくねぇ」

オデコにチュッと音を立ててキスした柊は
よく分からないことを呟くと
漸く身体を離して歩き出した

歩幅を合わせられなくて小走りのまま必死でついて行く


この時の2人のやり取りを離れの開放廊下から微笑ましそうに見ていたお母様と険しい顔で睨みつけていた藤堂室長のことには気付いていなかった


お庭を抜けてお屋敷の玄関にたどり着くと
艶やかな和装の女性が三名、花を抱えて出てくるところに出くわした


「「「家元」」」


突然現れた柊に驚いたのか
ため息か悲鳴か・・・どちらとも言えない甘い声が三人から聞こえた

邪魔になってはいけないと繋いでいる手を外そうとすればする程力を入れてくる大きな手はビクともしなくて
仕方なく柊を見上げると
恐ろしく冷たい視線を三人へ向けていた


ーー怖いーー


こんな冷たい目で見られたら私なら確実に石化するっ!
背筋を走る悪寒に身を捩り手を繋がれたままで柊の背中側に隠れる

その三人は空気が読めないのか

「家元〜」
なんて鼻にかかる甘い声を投げてくる
そして・・・繋がれた手を覗いたり気にしながらも

「私達、お稽古終わりですの」
「これからお茶でもご一緒しません?」
「そちらの女性は誰なんですの?」
「家元に相応しくないわ」


随分と勝手な言い方に

プチっ

柊のコメカミ辺りが音を立てた気がした








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