冬至りなば君遠からじ
 校門で高志が僕らを待っていた。

「オッス、二人とも」

「オハヨ、高志」

 僕は高志の腕をつついた。

「昨日は楽しかったんだって?」

「おう、コイツやたらと食うから、弁当たくさん作っていってさ」

「うっさいよ、あんたが喜ぶから無理して食ってやってんだろ。ありがたく感謝しろよ」

 凛が鞄を振り回す。

 今日は尻に当たって高志が喜ぶ。

「ありがとうよ」

「バッカじゃないの」

 あーあ、ご機嫌ななめだよ。

 でもまあ、以前のようなお約束事だ。

 元に戻って良かったな。

 凛が先に行ってしまって、高志が僕に言った。

「朋樹、ありがとうな」

「別に何もしてないよ」

「おまえが仲直りさせてくれたんじゃんか」

「そうかな」

「それに、気を利かせて俺たち二人だけで行くことにしてくれたんだろ」

 え、そうなの?

「二人でデートしたいから邪魔しないでくれって言ったんだろ」

 そんなこと言ってないよ。

「あいつ、文句言ってたけど、俺のために気をつかってくれたんだろ。ありがとうな」

 全部凛の仕組んだことだよ。

 凛のやつ、僕には二人で行くって言って、高志にも同じ事を言ってたのか。

「あいつさ、俺の作った弁当食いながらさ、『高志の作る物は何でもおいしいね』って言ってくれたよ」

「よかったじゃん」

「でさ、『高志が最高の調味料なんだよ』だってよ。いいこと言うだろ、あいつ」

 急にめまいがした。

 なんか胸の奥の方にもやっとしたものがある。

 形にならない感覚だ。

 心の中にあったはっきりとしていた気持ちが漏れだして空っぽの入れ物だけが残ってしまったような感じだった。

 あれ、何が入っていたんだっけ。

 体が震え出す。

『おまえは最高の調味料だ』

 どこかで聞いた台詞だなって思ったけど、頭の中がぼんやりしていて、何も思い出せなかった。

 誰かがそんなことを言ってたよな。

 誰だっけ?

 めまいがして、目の奥に鈍い痛みがわき起こってくる。

 脈拍に合わせてだんだん大きくなってきた。

 深呼吸して落ち着かせようとした時、こめかみに釘を打ち込まれたような激しい痛みに襲われて僕は手で頭を抑えた。

 倒れそうになって高志に支えられた。

「おい、どうした?」

「いや、なんでもないよ。寝不足かな」

 あれ、僕は何を思い出そうとしていたんだっけ?

 ついさっきまでのことを何も覚えていない。

 凛が楽しそうだったことだけしか覚えていない。

 でもまあ、それならそれでいいんだ。

 二人のデートがうまくいって良かった。

 ちゃんと仲直りできたんだ。

 それが僕の望んでいたことなのだから。
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