春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
それから、私たちは紫さんという方の車に乗り、二十分ほど車を走らせたところにある建物の前で降りた。

そこは暴走族・神苑がバイクを走らせていることで有名な街らしい。


「ここは?」


鍵を片手にりとが入っていく場所は、人々が行き交う繁華街の通りにあるお店。
『ANIMUS』と看板に書かれている、お洒落な建物だ。


(アニムス…?)


りとは鍵を開けると、扉を開け放った。
先に紫さんと諏訪くんを通すと、私たちにも入るよう促す。


「(り、と。ここは?)」


そう問えば、りとははにかんだ。


「俺の家」


聡美は驚いたような声を上げると、私の手を引いてずんずんと中へ入っていく。

中は洋風な外観からは一変、白を基調にしたテーブルセットが並ぶ、喫茶店のような空間だった。

ここがりとの家ということは、紫さんは身内なんだろうな。

病院ではなく、ここで手当てをするつもりなのだろう。


「僕は彼を手当てしてくるので、客間でお茶を出してください」


「分かった」


アンティークなグラスが並ぶカウンターで諏訪くんたちと別れ、私たちはりとの後に続いて奥へと入った。
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