春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「それを言うなら、人がいない隙を狙ってノートを破く人間だろ」


「あ、それな」


ふと耳に飛び込んできた会話の内容が、まさに昨日あったことだったので、思わず笑ってしまった。
どうやら諏訪くんもりとも見ていたらしい。


「あと、体育の時間に狙ってボール当ててくる奴」


「ああ、あれねー。小学生みたいだよねぇ」


「永瀬が倍返ししてたのを見て笑った」


「あはは、あったねぇ。永瀬チャンは怖いからなぁ」


ふたりは実際にあったことをネタに笑っている。
そんな風に笑い飛ばしてくれるのは正直嬉しかった。
私だったら、言いたくても言えなくて、ずっとモヤモヤしたままだっただろうから。


「おっと、もう18時だ。この後バイトだし、そろそろ帰るかなぁ」


ひたすらに笑っていた諏訪くんは、鞄を手に持ち立ち上がった。

彼はこの後アルバイトがあるらしい。偉いなぁ。私もやりたいけれど、声が出ない人間を雇ってくれる企業はないだろうし。


「もうそんな時間か。…冬が近いからか、確かに暗い。」


りとは窓の外を見ると、長めの吐息をついた。
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