春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

今ひとたびの


もう二度と目を覚まさなくたっていいや。このまま呼吸が止まってくれれば、もう辛い思いをしなくて済むから。

そんな馬鹿げたことを、生きたい人たちに失礼なことを思いながら、昨晩私は目を閉じた。だけど、それでも朝はやって来た。時間は止まってはくれなかった。


「おはようございます。よく眠れましたか?」


翌朝、重い瞼を擦りながらダイニングルームへとやって来た私を、エプロン姿で何かを作っている紫さんが迎えてくれた。

私は曖昧に笑い返し、頭を下げた。

りとに連れて来られたとはいえ、家出と言っても過言ではない私を泊めてくれたのだ。それもホテルのような豪華な客間で。


「制服は脱衣所に置いてあります。ブラウスも。すみません、勝手に洗濯してしまいました」


そう言うと、紫さんは戯たように笑った。

フライ返しで何かをひっくり返すと、蓋をして私の前へとやって来る。
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