春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
放課後、朝からずっと不機嫌だったりとを諏訪くんと宥めながら帰った。

聡美は急ぎの用事があって来れないそうだ。だが明日は一緒に来てくれる。
私と諏訪くんのことやヤクザのことは話せていないが、聡美は「構わない」と言って笑ってくれた。

いつか、自分の口から言える日は来るのだろうか。


「――さぁ、たくさん食べてくださいね」


帰宅した私たちを出迎えたのは、トナカイの格好をしている紫さんと豪華な料理だった。

腕を振るって作ったらしく、お店の料理よりも何倍も、何十倍も豪勢だった。

諏訪くんとりとは感嘆の息を漏らしながら、デコレーションケーキを四方八方から眺めている。

紫さんは嬉しそうに微笑みながら、取り皿を配り始めた。


「サーモンのマリネもありますよ。璃叶の好物でしょう？」


りとの顔がパッと輝いた。緩々と口元を綻ばせて、コクコクと頷いている。

さっきまで不機嫌極まりなかったのに。紫さんは凄い人だ。


それから、御馳走とケーキを堪能して。紫さんから色違いのマフラーをプレゼントされた私たちは、溢れんばかりの笑顔をこぼしながら一日の終わりを迎えようとしていた。
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