春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
はらりひらりと、花が落ちるように頬に雨が降ってくる。

変だな。私は雪が舞う場所に居たはずなのに。

ここはどこなのだろう?

真っ白い天井が視界いっぱいに広がり、羽のように柔らかい感触が背中越しに伝わってくる。

確かめるために上半身を動かそうとした瞬間、もう一度雨が降ってきた。


「馬鹿だよ、アンタ」


それは、雨じゃなかった。

微かに熱を持っている雫は、私のもののように頬を伝って、流れ落ちていく。

彼の、涙。


「…りと、泣いてる…?」


「泣いてない」


「じゃあ、これはなに?」


私はちょっとだけ笑って、頬を濡らした雫を指先で掬い取った。


「…涙腺内の毛細血管から得た血液から、血球を除いた液体成分」


「その液体成分は何なの?」


「泣いたときに出てくるやつ…って、言っちゃったじゃん。どうしてくれるの」


私はまた笑った。つられたのか、りとも戯けたように笑っていた。

りとは私の様子に異常がないことを確認すると、「医師を呼んでくる」と言って部屋を出て行った。


どうやら私は何日も意識が戻らなかったらしい。一体何があったのかと記憶を巡らせたが、酷い頭痛がして何も思い出せなかった。
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