春を待つ君に、優しい嘘を贈る。
「…私、見張られるんですか?」


「週末までここから出さないように、と維月からのご命令でね」


私は弾かれたようにりとの顔を見た。

りとは驚いたように目を見張ったが、私の意図を察すると、素早くスマホを取り出して日付と曜日を告げた。


今日は、一月十二日。金曜日。

サヨナラをしたのに、なぜなの?


「…どうしてですか」


「うーん、それは言えないなぁ。言ったら俺、維月に殺されちゃう」


陽向さんは曖昧に笑うと、無機質な音を鳴らしているスマホを片手に、出入口へと足先を向けた。

監視カメラのように見張るわけではなく、維月の家…御堂組が所有しているマンションの一室にいるようだ。


「とにかく、よろしくね。おしゃべり、ゲーム、ダーツ、なんでも付き合うからさ」


そう言うと、陽向さんは手に持っていたスマホを耳に押し当て、ひらひらと手を振りながら足早に部屋を出て行った。

残された私は、青いエプロンの結び目を解こうとしているりとへと視線を移した。
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