春を待つ君に、優しい嘘を贈る。

まつとし聞かば

ああ、また、だ。

また、あなたの夢をみている。

星が溢れ落ちる綺麗な世界の中で、淋しそうに笑いながら、私の名前を呼んでいる人。


『…柚羽』


綺麗なひと。琥珀色の瞳が、今にも涙を落としそうなくらいに煌めいている。


『…誰、なの?』


どうやら私は、この世界の中だけ声を出せるらしい。

世界でただひとり。あなたにだけ、音を届けることができるらしい。


『…柚羽』


そんな風に、愛おしそうに、私の名前を呼ばないで。

好きだって言われているみたい。

大切だって言われているみたい。

優しい笑顔で、甘い声で、私の名前を呼ばないでよ。

訳も分からないまま憎まれている私は、本当は悍ましい人間なのだろうから。


『誰、なのっ…?』


彼は答えない。


『どうして、私の名前を呼んでいるの…?』


彼は、答えない。


『あなたは、私が知らない私のことを、知っている人…?』


そう問えば、彼は笑顔を崩した。

流れ落ちる星々を背に、ゆっくりと歩み寄ってくる。

彼の指先が私の髪の毛先に触れた瞬間、世界が弾け飛んだ。
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