異世界トランスファ
「私の父もドラゴンだった」


凄い家系です。

動物超えてますもの。


「ドラゴンは、怒り狂うと自我を保てなくなる。小さい頃から穏やかに過ごせと言われてきた」


こくこく。と私は必死に頷く。


「父はある日突然黒龍になり街を燃やし始めた。自我の保てない父は国を滅ぼしかけた。
そして・・国を守る為に父はそのまま殺されてしまった。あっけなくな。」


「えっ」


「その時の理由は今となっては死んだ父にしか分からないが・・これは余程の感情が無いと変貌出来るものではない」


「戻り方は無かったんですか?」


「ああ。もしなってしまった場合は暴れまわり疲れ果て、気を失ってようやく元に戻る事しか今の所解っていない」


「そ、そうなんですか・・・」


怖すぎる。ドラゴンの家系。


「でも今までは・・」

「つもり積もってしまったのだと思う。
どうにもギンの食って掛かる目が脳裏に焼き付いてしまっていた。挑戦的な目がな」


「・・ごめんなさい。あの・・私のせいですよね?」


顔向けできない。こんな恐ろしい事。


「お前が抱きしめてくれた事で我を取り戻せた。良しとしよう」


頬を優しく撫でてくれる。

それからいつもの優しい微笑み。


「いつの間にか、お前は私にとって本当に大事な存在になっていたのだな」


ドキ・・

「トキワ様・・」


「女など・・子孫を残すためにのみ必要と思っていた私が。愛しいとさえ思ってしまった。だから、感情が出てしまったのだ」


トキワ様がそんな風に思ってくれていたなんて。

申し訳ない気持ちで胸が締め付けられた。


私は俯いたまま、ただただ話を聞いた。


「ほんの少しでいい。今は・・こうしていてくれ」


ソファーに座わり手を握って、肩を寄せる。


「愛してる。この感情は本物だ」


小さな声でつぶやいた後、トキワ様は静かに目を閉じた。


「・・・」


返事は出来なかったけど、私は小さくこくりと頷いた。

こんな私を真剣に好きになってくれる人がいる。

ギンも、ナギだって。

でも一人しか選べない。

私は一人しかいないから。



トキワ様は何をするわけでもなく、優しい時間をくれた。



今のこの穏やかな時間は、守らなければ。

この人を真っ黒なドラゴンにさせるわけにはいかない。

あんな苦しそうな顔はもう見たくない。

そう思った。

< 707 / 850 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop