ヒロインの条件
坂上さんはそこまで言うと「ありゃ、愚痴っちゃった」と笑う。その笑い方も、本当に綺麗だ。
「でもとびきり優秀だったからね〜。日本では一緒に仕事をしたかった。でもまさか自分の会社のシステム管理部で平社員として働いてるとは、びっくりしたよ」
あははと豪快に笑って、パスタの最後の一口を食べる。坂上さんはいつのまにか全部を食べきって「ごちそうさま」と手を合わせた。
「経験者としてアドバイスするけど、塩見を攻略するのは大変だから覚悟してね。やられてポイってことも、かなりありうる話だよ」
西島さんが少し怯えたように「ほ、ほんとですか?」と尋ねる。
「うん、ほんと。私の知ってる以前の彼だったらね」
坂上さんはうーんと伸びをすると「じゃあ、仕事もどるか!」と言う。
「まだお昼休みあるから、三人はゆっくりしてって。じゃあねー」
坂上さんは来た時と同様に、颯爽とその場を立ち去った。後ろ姿はまっすぐのび、高いヒールが高い音を立てる。
私はその背中を見つめながら、チクチクとした棘のようなものが頭の後ろを刺しているような、そんな不快感を感じていた。
あんなにあっけらかんと、佐伯さんとの関係を告白してきた。そんなことで自分は揺らがないと言わんばかりで……私はこんなにも揺らいでいるのに。
「本格的にまずい」
山本さんが頬杖をついた。半ば諦めとも取れるため息を吐く。
「元カノはもうさっぱりしたもんで、でも塩見さんは未練たらたらってところなのかなあ」
「でも、もう一度告白されたようには見えませんでしたよ」
西島さんが言う。「塩見さん、告白を保留にされてるっていってませんでした?」
そう言われて山本さんが「そっか」と顔を上げる。
「そういえば、すっかり忘れられてたとも言ってた。元カノは全然塩見さんのこと覚えてる。じゃあ、片思いの相手は坂上本部長じゃないのかな?」
山本さんの目が一瞬輝いてから「でも」とまた声のトーンが下がる。
「元カノって、今は何もないようで、やっぱりあるもんなんだよ。片思いを忘れさせるのは、あの人かもしれないなあ」