ヒロインの条件
「してのいいの?」
低い声が部屋に響いた。
すっと酔いが覚めて佐伯さんの表情が見えると、はっきりとその表情を理解できる。怒ってる。すごくすごく怒ってるのだ。
「あの……」
アルコールに意識を持っていかれそうになるのをすんでのところで食い止め、目を見開いて固まる。
「やって本当にいいのかって聞いてる」
佐伯さんの手がすっと伸びて、私の上腕をぐっと掴んだ。とっさに振りほどこうとしたけれど、意外にがちっと掴まれてて、無理だった。
心臓がばくばくばくばくーっと動き出した。すごいスピードでアルコールが駆け回っているはずなのに、心臓が早くなるほどに頭が冴えてくる。
「ほ、やるってどういう?」
半ば逃げ腰で尋ねたとたん、ベッドに押し倒された。
え、本当に? 本当に本当に、本気?
見上げると佐伯さんの一つも笑ってない瞳がこちらを見下ろしている。掴まれた腕がすごく痛い。試合で掴まれるのとは全然違った。
佐伯さんの顔が首もとに降りて、私は空いている方の手でギュッと身を守るように体の前で握りこぶしを作る。
熱い唇と、熱い息と、サラサラの髪と……どうしよう、全然頭が働かない。佐伯さんが私のシャツをたくし上げたので「わっ」と身をよじったけれど、逃れられずに無遠慮に手が入ってきた。
指、やっ、指が……背中のホック、うわっ、取られた。
あっという間にシャツは頭からすっぽり抜けて、下着も腕から引き抜かれた。私は必死に前を隠して、身を屈める。