ヒロインの条件
「やっぱり、元カノ油断ならない」
山本さんが憮然とした表情で言った。「わざと意地悪してんの」
「そう言ってました。でも、それほど意地悪だったわけじゃなく、なんていうか私がいろんなことが初心者すぎて、ショックを受けすぎたんだと思います」
山本さんは「まあ、そういうこともあるかも」と頷く。
「で、謝ったの?」
「謝りました」
「それで、朝話した?」
「まだ会ってません」
そう言うと、山本さんが「こういうのはほっといちゃダメ」とまた手を引っ張る。
「どこへ?」
「シス管。ちゃんと挨拶だけでもしとこう。こういうのしこりになっちゃうから。笑顔で挨拶するんだよ」
山本さんと一緒に、重苦しい雰囲気で階段を上る。もしまだ怒ってたら? もし無視されたら? もし、もし、嫌われてしまっていたら?
階段を上りながら、右手で口を押さえる。心が弱くなって、吐きそうになった。
システム管理部の入り口で中を覗くと、ちょうど廊下へ出てくる西島さんに出会った。
「わっ、その顔!」
西島さんが私を指差した。
「もう塩見さんって出勤してる?」
山本さんが尋ねる。
「あ、うん」
「いつもと変わらない?」
「えー、そんなにまじまじと見てないですから」
西島さんは猛烈に困惑中だ。
「ちょっと呼んできて」
山本さんが言うと「えっ、なんで?」と西島さんが驚いた。
「いいから、呼んできてよ」
「もう、大丈夫です、いいですからっ」
私はいたたまれなくて、西島さんを引き止める。「今は朝で忙しいし」