ヒロインの条件

小学二年生の時、近所の柔道場にお兄ちゃんと通い出すと、私はめきめきと頭角を現した。お兄ちゃんはとっくの昔にリタイヤしたのに、私は高校も大学も柔道の推薦で行けるほど強くなり、周りから『最強の女』と褒められた。
柔道が大好きだ。

技をかけるときの、中心にひゅうっと自分が集まって、それが爆発するみたいに外へ放たれる、その瞬間がたまらない。自分の何倍も大きな人を投げ飛ばす時の爽快感は、自分の全てをかけてもいいと思えるほどの喜びだった。

でも柔道でオリンピックに行けるほど強くはなく、結局大学四年で進路を問われた時、柔道の道は諦めた。コーチや体育教師もいいかなと思ったけど、それよりも何よりも。

ヒロインになってみたいと、強く強く思ってしまったのだ。

実は柔道と同じくらい、小さい頃から少女漫画が大好きで、今も最新刊が出ると本屋に飛び込んでいく。華奢な女の子が完璧なヒーローに愛されて幸せになる。大筋はどの作品でもだいたい同じなんだけど、胸がきゅんとする感じは、毎回最高だ。

私は二の腕が筋肉質だし、握力最高だし、華奢とは縁遠いけれど、柔道から離れたら「もしかしたら」って期待したのだ。けれど、柔道とはまったく関係ない会社の経理部員になった今も、やっぱり私は私なのだ。

結局、ヒロインになるには、私は強すぎるんだなあ。
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