ヒロインの条件

「俺のことはいいよ、大しておもしろくないし」
佐伯さんはそういうと、立ち上がってBBQのところへ歩いてきた。

「焼けたんじゃない?」
トングを私から受け取ると、みんなに「ほら、追加のお肉きたよ」と声をかけ、それを機に私は自席にもどってベンチにトスンと力が抜けるみたいに座った。

本当に本当に、この人は私のことが好きだというのだろうか。そんな経験がこれまでなかったから、とても信じられないけれど、こんな風にみんなの前で宣言するってことは、やっぱり本気なのかも……。

「野中さんも、ほら」
佐伯さんは私のお皿に美味しそうに焼けたお肉を置いたので、見上げると佐伯さんの目と合う。

「お肉好き?」
「は、はい」
私が頷くと、佐伯さんは笑って「じゃあおまけ」ともう一切れ入れた。

トングを置いて再び佐伯さんが隣に座る。山本さんを見ると軽く放心状態かもしれなかった。

「野中さん、恋人は?」
突然横から聞かれて、「私っ?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。佐伯さんは右手で頬杖をついて、こちらを見ている。

「いないですよ、ははは」
返事をしながら、顔が猛烈に赤い。

「さっきの友達って人は?」
森山さんが尋ねる。

「違います、ぜんぜん。千葉は仲間っていうか、ずっと道場が一緒だったんですよ」
それから顔を手であおいで、「お酒が回ったかな」と言い訳する。

「久しぶりの再会なら、これから何かあるかもしれないよね」
山本さんがそう言ったが、その口調からはもうあまり佐伯さんの「好きな人がいる」発言を、気にしてないように見えた。

「ないですって」
私はごくりとビールを一口飲む。

「青春を一つのスポーツに捧げるって、なんかいいな」
城島さんが優しくそう言ってくれたので、私は嬉しくてにんまりした。
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