ヒロインの条件

それからも、社内恋愛の話から、仕事の話、上司の話、はたまた国際政治に渡って、たくさんのことをしゃべった。同期が西島さんしかいないので、こんな風にワイワイ会社の人たちと過ごすのは、初めてだったと思う。それがとっても楽しかった。

そろそろ太陽が傾き始めたころ「じゃ、片付けようか」とみんな立ち上がっる。私がBBQの網やトングを洗うために水場へ行こうとすると「俺も」と佐伯さんが他のビールの空き缶を抱えてついてきた。後ろにいると思うと、どうしようもなくもぞもぞしてしまう。

水道の蛇口をひねると、佐伯さんが隣に立った。空き缶を水でゆすぎ始める。

「いないんだ、恋人」
佐伯さんは私の顔を見ずに言った。

「いません。知ってますよね?」
私はたわしで網をゴシゴシと洗いながら言う。

「知らなかったよ。でも安心した、野中はフリー」
その言葉で胸が静かに鳴りだした。本当に、ちょこちょこドキッとするようなことを言ってくる。

佐伯さんはシンクに濡れた両手をついて、こちらを見た。
「で、返事はいつ?」

青い葉の匂いと、ザワワとなる木々と、少しのアルコールで早い脈の中、佐伯さんはとても穏やかにこちらを見ている。メガネに傾きかける太陽の光が反射して、ふと何かを思い出しそうになった。
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