プロポーズ(第7話)
川中さんはきのう退社後、美容院へ行ってきたのだろう。くっきりとウェーブをかけて、髪だけが浮き上がって見える。
おおかた今日はプロポーズといったところか。気持ちはわかるけど、そんなの、彼氏にその気があれば、明日だって、あさってだって、かまわないじゃないの。
それでもわたしは自分を抑えて、
「ねえ、日延べしてもらえないかしら?」
と、下手に出た。
「ダメです」
速攻で却下された。
「だってあたし、やっと……やっと幸せをつかめそうなのに」
うるうると目を潤ませる。薄幸そうな顔が、涙でさらに幸薄い印象になる。
川中さんという人は、次々に男とつきあってはフラれ、つきあってはフラれ、ということをくり返していると聞いている。
ある意味、うらやましい。わたしなんて、参戦するのも稀なんだから。
「川中さん、いい? プライベートも大事かもしれないけど、今は仕事が大変なときなの」
「嫌です。プライベートで幸せになれないなら、仕事をする意味がありません。あたし……あたし、係長みたいな生き方、無理です」