諦めたけど好きです
片思いは混乱

「………ありがとう」

「!じゃぁ…」

女の子の顔がパァッと明るくなる。
けれど秀はうつむいた。

「…でもごめん。俺、他に好きな人いるから…」

「え……」

女の子から1つ涙が落ちた。

「ごめん」

秀はそう言うと、教室から出ていった。

私は隣の教室に隠れていた。


シーンとした廊下で二人の声は丸聞こえだった。

今は女の子の泣く声が聞こえる。


私は壁によしかかっていた。
そのままズルズルとしゃがむ。


秀………好きな人いるんだ……………………

あんな可愛い子に告白されても、断るぐらい好きなんだ。

当たり前か、好きな人いたら断るか。


誰だろう。秀の好きな人って……………

私だったらいいなぁなんて……あるわけないよね。

1回拒否られてるんだから、あり得ない。

でも………でも…………………


「あ……」

涙がこぼれ落ちた。

「………うっ…」

ダメだ。止まらない。

好きな人いるんだ…どんな子?どこが好きで、どこが気に入ったの?



私とどこが違うの?


好き。大好きだよ、秀。



「……どうしたんだ?」

ハッとして顔をあげると、目の前に光樹が立っていた。

「…なんで泣いてるんだ?」

「…別に、関係ないでしょ。ほっといて」

光樹は、心配してくれてるのに…ごめん

でも今は、そんな余裕がない。

「じゃぁ…」

私が光樹の横を通ろうとしたら、
「友達が泣いてるのに、ほっとけるわけないだろ!!」

私の腕をつかんだ。

「俺は頭も悪いし、頼れないだろうけど話ぐらいなら聞いてやれるから!」


光樹はそう言うと、私の体を引き寄せて抱き締めてくれた。

あったかい………

「女が泣いてるのにほっとく男は、世界中探したってどこにもいないぞ。」


「………初めてあんたに女扱いされたわ」

鼻で笑おうとした。

でも一緒に涙が出て来て笑う事はできなかった。

「………何があったんだ?」

「……………さっき、秀が女の子に告白されてるのを見たの。」

私は光樹の腕の中で言った。

「それでね、付き合ってって言われたけど秀はごめんって。好きな人がいるから無理だって………………………秀には好きな人がいるって……」

「うん」

「……どうしよ…好きな人がいるんだって………どうしたらいいんだろうっ!……………わかんなくなってきちゃった……」

「そっか」

「好きになってもらおうと頑張ってたけど!…好きな人がいるならもう絶対に無理じゃ…」

「少し落ち着け」

光樹は私の頭を撫でてくれた。

「…………………………」

「確かに好きな人がいたら、その気持ちが変わるのは難しいかもしれないけど、フラれる可能性だってないわけじゃないだろぅ?だから…」


「私にとっては!!私にとっては、秀がその好きな人にフラれたとしても、喜べないよ!自分はあの人に勝てないんだって!わかってるもの!……だからもう…」

嗚咽が漏れる。

「無理…………………なのかな…………」

私の言っていることがぐちゃぐちゃだ。

自分でも何を言っているかわからない。

それでも光樹はちゃんと聞いてくれた。

光樹は力を強くして、もっと私を抱きしめた。

「……………大変だよな片想いって。俺もな、好きで好きでたまらないのに全然気持ちが伝わらないんだよ。あいつばっか見つめて俺は友達のまんま。どうしたらいいかわからない。」

初めて知った。光樹にも好きな人がいたんだ。

「………………俺はそいつの好きな人を知っている。その二人が仲がいいのも知っている。『もしかしたら』何て言う妄想は全部外れて。」

光樹の声が苦しそうだ。

「でもな、そいつは俺の気持ちなんか知らずに満面の笑みで話しかけてくんだよ。嫌な奴だよ。」

「………………………光樹は諦めないんだね。わかってても。」

私はしたから光樹の顔を見た。

「まあな。譲る気なんて全然ないし、勝ち目なくても少しはいいなって思ってくれるように頑張ってる。……………だから」

コツンっと私のおでこと光樹のおでこがあたった。

「まだ秀の好きな人がわからないなら、自分かもって思って浮かれてはしゃいでアタックすればいいんじゃね?お前は一番女の中で秀と仲がいいんだから。」


「……………ありがとう」


諦めたくはない。譲る気持ちもない。


好きなままでいよう。



「落ち着いたか?」

「うん。もう大丈夫」

光樹が私を離した。

そして頭を撫でてくれた。

「………………頑張れな。…応援してるから」

「ありがとう!」

ニコニコ2人で笑った。




この時私は気づかなかった。廊下であの人がこちらを見ていたことに。



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