短編集
別れと海
いつからだろう。

ずっと一緒にいた人がいた。

喧嘩もしたことない。

名前は彩葉(いろは)

女の子のような名前だったけど僕にとってはすごくいいお兄ちゃんだった。

僕が物心着いた時から一緒にいて、一緒に話して、一緒にはしゃいで。

それが僕の普通だった。

ダメと言われてた海にも2人でいった。

浜辺で駆け回って転んで砂まみれになった。

見つけた貝殻を交換したりした。

海風で錆びた線路の上を走り回ったりした。


でも中学の時、初めて喧嘩をした。

「ふざけんな。」って。

「なんで言わねーんだ。」って。

彩葉に冷たい言葉しか言えなかった。

彩葉はただ「ごめん。」としか言わ無かった。

その日から僕達はすれ違っていつの間にか話さなくなった。

会うことも無くなった。

高校生になったある日。

彩葉から手紙が届いた。

一通の水色の封筒に入ったもの。

海の絵柄が書かれていた。

「なんで今更。」って思った。

僕は封筒を切り手紙を開いて読んだ。

そこには一言「ありがとう。ごめんね。」と書かれていた。




気がつくとある部屋にいた。

誰もが泣いて悲しんでいる。

棚には交換した貝殻が置かれていた。

欠けていてボロボロな。

彩葉の姿はもう無い。

面影を探すように走った。

探し回って、探し回って、探し疲れて。

手に持っていた貝殻は握ったら割れてしまいそうで。

もう彩葉が残らなくなりそうで。

『ありがとう。ごめんね。』の意味なんて分からない。

分かりたくもない。

いつも隣にいる明日が無い。

錆びた線路の上を走っても、彩葉の影は無い。

海に行っても彩葉の面影などない。

僕にとっての普通が普通じゃなくなったような気がした。

転んで砂まみれになっても手を差し伸べてくれる彩葉はもう居ない。

思うことは色々あった。

でも全てを信じたくなかった。

海辺ではただ何も無い砂を握るしか無かった。
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