夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】

「っ……バ、バロン?」

「帰りましょう?
ローザ殿も、みんな心配しております」

我に返って、恥ずかしくて真っ赤になる私を抱きかかえたまま、彼は暗い道を躊躇なく歩いて行く。

信じられない。
木の根や斜面でボコボコした歩み辛い暗い山道を、まるで知り尽くした獣のように抜けて行くのだ。

そんなバロンを見て、ますます膨れ上がる疑問を私は懸命に胸に押し込んでいた。


「……ね?バロン。
右腕、本当に大丈夫なの?」

「帰ったらちゃんと処置します。
元々左利きなんで、不自由はありません」

「……」

左利き、なんだ。
初めて知った。

当たり前のように、さらっと答える彼に、私は少し寂しくなった。


私はバロンの事を、何にも知らない。
この三ヶ月くらい、毎日のように一緒に居たのに……。
こんなに近くにいるのに、遠く感じる。


なんだか胸がキュッと締め付けられて、苦しいーー。
切なくなって、バロンの首に手を回して抱き付いた。
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