夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
「僕はここで寝るから。
アカリに何かない限り、一歩も近付かないよ」
「!……え?
ゆ、床で寝るなんてダメだよっ!」
「さすがにそれは!」と首を横に振るが、そんな私を黙らせるように、柔らかい笑みを浮かべたバロンが背後の扉を指差す。
「この扉、鍵が壊れてるからさ。
夜中に変な奴が来たら大変でしょ?」
そう言った彼は自分の片膝の上に頬杖を着くと、そこからとても優しい瞳で見つめてくる。
目が合って、トクンッと脈打つ心臓。
この美しい眼差しに、魅せられない人がいるのだろうか?
「何があっても、絶対に守るから。
アカリは目的地に着いたら何をしたいのか、それだけ考えてればいいよ」
「っ……。う、うん」
さっきまでの心の乱れが嘘のようだ。
バロンの言動に、騒がしかった鼓動が鎮まっていた。
コクリッと頷いて、ベッドに静かに横になる。
「……おやすみ、なさい」
「おやすみ」
変なの。
ドキドキするのに、落ち着く。
初めての旅で、この先何が起こるかも分からないし。
きっと別荘でも私がいなくなったってバレたら、大騒ぎだろうし。
夢の配達人の隠れ家も、本当に見付かるのかも分からないのに。
不安な筈なのに……。
私は瞳を閉じたら、あっという間に眠ってしまった。