夢の言葉は魔法の呪文【改訂版】
「……なんてね!嘘よ。
ちょっと言ってみたかっただけ!」
私は微笑んでバロンから離れると、靴を脱ぎ捨てて、波打ち際にパシャッと足を踏み入れた。
冷たい海水。
足元から私を冷やして、現実の世界に戻してくれる。
深呼吸をして、振り向いて彼を見つめると、私は胸に手を当てて頭を下げた。
「この場所で貴方に出逢えて、私は本当に幸せでした。
小さな狭い世界から、いつだって私を連れ出してくれた。
独りぼっちの私に、いつも一番近くで寄り添ってくれた」
私が”バロン”にしてあげられる、最後の事。
伝えよう。
たくさんの感謝の気持ちと一緒に……。
貴方が振り返らず、真っ直ぐ未来に向かっていけるように願うよ。
召使いの彼を、解放してあげる。
これが、お嬢様としての最後の仕事。