俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
それとほぼ同時に、彼がこちらを振り向く。


「いらっしゃい──」


普通に客が来ただけだと思ったらしい彼は、私を見てみるみる目を丸くし、しばし固まる。

記憶にある父よりもだいぶ年を重ねた顔、でも滲み出る優しい雰囲気は昔のまま。

そんな父を見つめて私も佇んでいると、彼はこちらに一歩足を踏み出した。


「……麗?」


幻を見ているかのような顔で名前を呼ぶ彼に、私は熱いものが込み上げるのを感じながら、ふわりと微笑む。


「久しぶり、お父さん」


ゆっくり言葉を紡ぐと、父は堪らないといった感じで駆け寄ってきた。

ちょっぴり泣きそうな顔で、私の腕をしかと掴む彼は、感激してくれていることがよくわかる。


「麗! あぁ~こんなに美人さんになって……父さん緊張する」

「昔の私を見てるみたいでしょ?」


母が私の隣にひょこっと立ってしたり顔をするものの、父は「母さんより綺麗かも」と真面目に言うので、母の目が据わった。

ふたりのやり取りを雪成さんと一緒に笑う私に、父は再び感極まった表情を向ける。


「ありがとう、来てくれて」


やっと会えたのだと実感し、つかの間ではあっても家族がまたひとつになれたことをとても嬉しく思いながら、「こちらこそ」と返した。

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