俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
心の中であたふたしているうちにふたりは背後にやってきてしまい、私は今気づいたフリをして「お疲れ様です」と頭を下げた。

階段にすればよかったな……普通にしていればいいのに、なぜか目も合わせられないんだもの。どうしたんだ私。

四年ぶりの接近にドキドキしながら固まっていると、すぐ後ろからふたりの会話が耳に入ってくる。


「TSUKIMIの件、会食の準備は万端?」

「えぇ。川内社長がお好きな料亭を予約してあります」


それを聞いて、ふとあることを思い出す。

TSUKIMIというのは、若者に人気のショッピングビルのことだ。川内社長の名前からして間違いない。

以前、このビル内のテナントに新規レストランを入れるべく、プロバイドフーズが商談に持ち込もうとして失敗した苦い経緯があるため、よく覚えている。

会食をするということは、もしかして再度挑戦するのだろうか。


「あそこは一度断られてるから、抜かりなく計画しないとな」


不破社長のひとことで確信した私は、今しがたの葛藤は一瞬でどうでもよくなった。

それより、念のため大事なことを伝えておかないと!

< 37 / 261 >

この作品をシェア

pagetop