俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「あの!」


急に振り返って声を上げた私を、ふたりはキョトンとして見下ろす。

改めて向き合うと怯んでしまいそうになるのを堪え、軽く頭を下げる。


「突然申し訳ありません、TSUKIMIのお話が聞こえたもので、ひとつお伝えしておきたいことが……」

「なに?」


不破社長はわずかに首を傾げ、短く言葉を発した。

彼の綺麗な瞳と目線を合わせた一瞬、時間が止まったような気がした。四年前の記憶が蘇ってきて心臓が大きく波打つ。

私に気づいてくれるだろうか──という期待が膨れるも、今はそれどころじゃないと気持ちを落ち着かせ、口を開いた。


「以前、私たちが断られたのは、会食時にお渡しした手土産が本当の原因だというのはご存じでしょうか?」


遠慮がちに問いかけてみた直後、エレベーターの扉が開くと同時に、社長と専務は一度顔を見合わせた。

社員が挨拶をしながら出ていく中、桐原専務は真剣な顔をして私に向き直る。そして、「詳しく聞かせてください」と言い、私をエレベーターの中へと促した。

営業部のオフィスがある四階にはすぐに着いてしまう。空になった箱に乗り込む前から、私はせっかちに話し出す。

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