異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「病にかかっていようと死を背負っていようと構わない。若菜の運命を俺にも分けてくれ」

 言葉の通り、シェイドは私の運命ごと奪うように唇を重ねてくる。恐れたのは一瞬で、それからは与えられる熱に思考が鈍っていく。

 ああ、もう否定するのは無理だ。こんなにも命がけで自分を愛してくれるシェイドに、惹かれずにはいられない。

 本当はずっと前から、彼と同じ気持ちだった。蓋をしていた想いがあふれ出して、明確な名前をつけてほしいと訴えかけてくる。

 ――私はシェイドが好きなんだわ。

 スッと胸に収まった感情に身を任せて、彼の唇を受け入れる。目を閉じれば、シェイドがどれだけ優しく自分に触れてくれているのかに気づけた。

 何度かお互いを労わるような口づけを交わして、そっと離れると間近で視線を絡ませる。彼の琥珀色がいつもより濃く燃えているように見えた。

「あなたの気持ちを確かめないうちに触れてしまい、申し訳ない。でも、心細そうにしているあなたに触れてあげたくて、我慢できなかったんだ」

 謝りながらもシェイドは私の腰を引き寄せて、強く胸に抱いてくれる。彼の軍服に顔を埋めると、形容し難い薔薇にも勝る甘い香りがする。 

「私……自分で思っている以上に怖かったんだと思う。でも、私が弱気になっていると患者さんも不安になるから……」

 彼のくれる優しい言葉や抱擁に気が緩んだからか、強がっている自分を暴かれてしまった。シェイドは私も自覚していなかった不安をいち早く察してくれていたのだ。

「知ってる。俺はあなたをいつも見ているから」

 耳をくすぐる艶やかな声が心地いい。私はいけないと頭では理解していながら、甘えるように彼の胸元に縋りつき目を閉じる。

「自分のことを後回しにしてしまう若菜のことは俺が守る。まあ、いつかはあなたから頼りにされるような男になりたいとは思うが」

 この茶化すような口調も私が思い詰めてしまわないようにと、シェイドなりの気遣いだ。押しつけがましくないさりげない彼の心配りに何度救われてきただろう。

「もう十分頼ってるわ……本当に、ありがとう」

 規則正しい鼓動、背中をさする手、溶け合う体温。そのどれもが私を守ってくれているようで、しばらく彼の腕の中でじっと目を閉じていた。

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