異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「後悔もあるだろうが、若菜の働きがあったから感染は最小限に留められたんだ。だから、あまり自分を責めないでくれ」

 彼の言葉は心の隅々まで行き届く。どうして話してもいないのに、私の悩んでいることがわかるのだろう。欲しい言葉をくれるのだろう。

 胸がジンとするのを感じながら、私は髪に触れている彼の手首を両手で掴んで微笑む。するとシェイドは目を見張った。

「っ……若菜?」

「ありがとう。私はあなたの優しさに救われてばかりね」

「それはお互いさまだ。俺もあなたの言葉や勇敢さに救われている」

 私たちは自然と手を繋ぎ、笑みを交わした。温かい空気が流れるのを心と肌で感じていると、「で、なんでお前らまでいるんだよ」という声が聞こえてくる。

 シェイドと同時に振り返れば、盗賊たちを見てシルヴィ治療師長が怪訝な顔をしていた。

「シルヴィ治療師長、もう忘れちゃったんですか? 盗賊さんたちはこれから、感染症沈静化に貢献した功労者としてロイ国王陛下から恩賞を賜るんですよ」

 さすがはマルクだ。仕事のこと以外は興味なしで、私生活はずぼら。面倒くさがりで人の話は右から左であるシルヴィ治療師長より、断然しっかりしている。

「盗賊の俺たちが功労者だなんて感動だよな」

「ああ、これからはハーブビネガーを売って行商人として生きていこうぜ」

 盗賊たちが喜びを噛みしめているところへ、シルヴィ治療師長は「どういう心境の変化だよ」と水を差す。

「俺らは姉さんのおかげで、人の役に立つ喜びを知ったんだ」

「新しい生き方を示してくれたんだ」

 聞き間違え出なければ、盗賊たちの口から“姉さん”と聞こえた気がする。気のせいだろうと思いつつ盗賊たちを見ていると、まるで神様かなにかを崇めるような眼差しが返ってきた。

「もしかして、その姉さんって私のこと?」

 恐る恐る尋ねてみたら「はい」と元気のいい返事が返ってきた。言葉を失っている私の隣でシェイドは口を片手で覆い、肩を震わせている。

「シェイド、笑い事じゃないわ」

「くっ……いや、すまない。どうしてそんな流れに?」

 笑いを堪えている彼が言った『流れ』とは、おそらく私が『姉さん』と呼ばれるに至った経緯だ。しかしながら、私も知らない。むしろ説明してほしいくらいだと項垂れている私の代わりに、シルヴィ治療師長が勝手に報告を始める。

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