異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「ロイ国王陛下、我らを迎え入れて手厚く歓迎してくださったこと、深く感謝いたします。それから厚かましい申し出とは重々承知しておりますが、王位奪還までご尽力いただけますでしょうか」

 深く頭を下げるシェイド様にロイ国王陛下は「堅苦しい挨拶はよい」と言って、笑みを浮かべる。

「そなたのことは幼い頃から知っているのだぞ。私の旧友であるそなたの父君の遺言の通り、私もシェイド王子がエヴィテオール国の王となるべきだと思っておる。そのための助力は惜しまないと約束しよう」

「重ねて感謝いたします」

 顔を上げたシェイド様は幼い頃から交流があったらしいロイ国王陛下に形式的なものではなく、親しみを込めた笑みを返した。

「シェイド様、ずっとここにいてくださってもいいのよ?」

 高く可愛らしい声で、アシュリー姫がシェイド様に声をかける。姫は腰のあたりからふっくらと広がったプリンセスラインのピンク色のドレスを揺らして椅子を立つと、階段から降りてきた。

 編み込まれたブロンドの髪にはドレスの柄と同じ赤色の薔薇と艶のあるリボンが飾られていて、そのアンティークドールのような愛くるしさに見る者が思わず息を呑む。

 アシュリー姫は片膝をついているシェイド様の前に立つと、腰を屈めてふわりと花が咲いたように笑う。

「だって、シェイド様は私の婚約者なんですもの」

 ……え? 今、なんて?

 頭の中に浮かぶ、疑問と混乱。冷静に考えればシェイド様は王子なのだから、婚約者がいてもおかしくはないはずだ。なのに、こんなにも動揺しているのはなぜだろう。

 私がひとりで首を傾げていると、シェイド様はまんざらでもない様子で微笑み返す。

「アシュリー姫、滞在を歓迎してくださり嬉しく思います」

「シェイド様、あとで一緒に庭園をお散歩してくださる?」

「喜んで」

 戦場では見せたことがない、王子という名に相応しい気品ある優美な微笑み。私の前ではいつも困ったような笑みを浮かべているのに、この態度の違いはなんなのだろうか。

 姫と比べること自体がおこがましいことだというのに、胸にモヤモヤとしたものが鬱積する。

 そして気分が晴れないまま謁見は終わり、私たちは廊下へ出た。

 治療師の皆と用意された客室へ向かおうとしたとき、「若菜」と名前を呼ばれて振り返る。そこには凛然と立っているシェイド様の姿があった。

< 46 / 176 >

この作品をシェア

pagetop