異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「え、どうなされたんですか?」

 てっきりアシュリー姫と庭園へ散歩に行かれると思っていたので、私は目を瞬かせる。すると、私が驚いていることに不思議そうな顔をしながら、シェイド様が歩いてきた。

「話があるんだが、時間をもらえないだろうか」

「話……ですか?」

 アシュリー姫にではなく、私になんの話があるのだろう。心の中で嫌味を言ってしまう狭量な自分にうんざりした私は、すぐに取り繕うように笑って「いいえ、行きます」と答えた。


 数分前にアシュリー姫がシェイド様を誘ったはずの庭園に、なぜか私がいた。光沢のある厚い花弁の赤薔薇、アンクル・ウォルターが咲き乱れるそこは、伸びっぱなしの髪に化粧どころか長らく肌の手入れもしていない飾りっ気のない私には分不相応な場所だ。

 アシェリー姫とシェイド様が歩いていたら、様になっていたんだろうな。

 私はこんなに後ろ向きな人間だっただろうか。仕事で嫌なことがあってもすぐに切り替えられるし、同僚の愚痴に同意を求められても愛想笑いでかわせた。悩むくらいなら行動するがモットーの私はどこへ行ったのやら。

「若菜、王宮治療師にならないか」

 ひとりであれやこれや考えていると、シェイド様の声で現実に引き戻される。あてもなく庭園を歩いていた私たちは、示しを合わせたように足を止めた。

「シェイド様、今なんておっしゃったんですか?」

 向かい合って彼の顔を見上げると、琥珀の瞳が細められる。そっと腕が伸びてきたと思ったときには、シェイド様に手を握られていた。

「あなたのこの手は誰かを救うためにある。救えなかった命もあるかもしれないが、それ以上にあなたに救われた者は大勢いるはずだ」

 手の甲を親指の腹で撫でられ、戸惑いながら続きの言葉を待った。

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