異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「私を治療師長にって、いいんですか?」

「お前の治療師としての力量も指導力も、悔しいけど俺では敵わないからな」

 もっと不満そうに言うかと思いきや、シルヴィ治療師長はやけに清々しい表情をしている。彼が認めてくれたのだとわかり、私はその場に正座をして頭を下げた。

「これから、よろしくお願いします。それで、お願いがあるんですけど」

「面倒そうだから、断る」

「私に薬草学の講義をしてくれませんか?」

「やっぱ面倒事じゃねぇか、断る」

「治療師を育てるのも治療師長の仕事なんですから、お願いしますね?」

 私たちは対等なので遠慮なく凄むと、シルヴィ治療師長はげんなりした顔で天を仰いだ。

「果てしなく面倒くせぇ」

「ふふっ、長い付き合いになるんですから頑張ってくださいね」

 今日一日でシルヴィ治療師長は、毒舌で極度の面倒くさがりであることが判明した。意地悪いことばかり口走る彼だが、邪険にはされていないようなのでうまく付き合っていけるだろう。 

 こうして王宮治療師の見習いになるはずの私は、その日のうちに治療師長に就任することとなったのだった。


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