幻獣サーカスの調教師
幻獣を縛る者
ルルが目を覚ましたのは、三日後の夕方だった。

「……う……ん」

「ルルさん?」

「………ノエン……さん?」

ぼんやりと回りを目で見回してから、ノエンへと視点を合わす。

「良かった。耳は聞こえているようですね」

ノエンの言葉で、ルルの頭の中に、一気に記憶が流れ込んできた。

「!!私!」

勢いよく起き上がると、とてつもなく右肩が痛んだ。

「あぐっ……」

「動いてはいけません。右肩と腕を針で縫ったんですから」

言われて腕を見下ろすと、包帯が巻かれていた。

「……私……あの時……ラッドに……」

思い出すと背筋が震える。ラッドは一切躊躇わなかった。

「……あ……そう……だわ」

ルルはラッドの牙を思い出した時、右耳に激しい痛みを感じた。

「……ノエンさん」

「はい」

「私の耳は……どうなってますか?」

「……それは」

迷ったようなノエンの声に、ルルは無理矢理起き上がって部屋の引き出しを漁り、手鏡を取り出した。

裏返しに取り出した鏡を暫く眺めて、ルルは覚悟を決めて裏返した。

そこに写った自分の顔に、ルルは言葉を発することが出来なかった。

鏡に写る顔は、目を見開いたまま固まっていて、とても情けなく写っている。

左側は出っ張っているのに、右側がへこんでいるのが、酷く不格好で、正直に言ってしまえば―。

「……気持ち悪い」

自分の顔なのに、気持ち悪かった。片方だけ無い耳。

動かすのもやっとな右腕と肩。

もう、人間ではなくなってしまったかのような姿に、不思議と笑いが込み上げてきた。

「……ふっ、ふふ!あはははは!?」

「……ルルさん」

右肩を押さえながら、ルルは声をあげて笑っていた。

元々醜い容姿だった。褒めてくれたのはノエンくらいだ。

取り柄など無いと言っても良い。前よりも醜くなったところで、何を嘆く必要があるのだろう。

「あはっ、あはは……ははっ」

膝をついて笑いながら、床にはポタポタと染みが付いていく。

「……」

ノエンは出しかけた手を握りしめ、ただ笑い続けるルルを見下ろしていた。

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