幻惑な夜
俺は洗面所に入って髪をとかした。

洗面所と言っても、トイレと風呂が一緒になったユニットタイプでかなり狭い。
ドアを閉めると息苦しささえ感じる。

髪をとかしながら俺は、だけど万引きって何だと、もう一度考える。

恭子が何故万引きなどしなければならない?

俺は恭子がスーパーを出たところで万引きGメンのおばさんに腕を取られ、「あなた、ちょっといいかしら」と、事務所に連れていかれる姿を想像した。

万引きGメンがおばさんで、その顔が妙にリアルに想像出来るのは、きっと昨日の夕方にやっていた二ュース番組のせいかもしれない。

番組の中の特集で、『追跡、万引きGメン』なるものをやっていた。

万引する高校生や主婦たちを捕まえる、補導員の姿をレポートするやつだ。

昨日は土曜で、恭子は仕事が休みだった。

だから恭子は、俺と一緒に夕飯を食べながら、その番組を見ていたんだ。

番組の中で、捕まり泣きじゃくる主婦を見て、恭子は「バカみたい。泣くんだったら、こんな事しなきゃいいのに」って、そんな事を言っていた。


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