憧れの彼と、イイ仲になりたいんです!
しかも気紛れで言った可能性もあるし、さっきのはあまり期待できないかもしれない。


(いいんだ。それでも嬉しかったし)


私のことを思って厳しいことも言ってくれた。
あんな風に皆の前で言われたら、今までみたいに容易く残業を頼まれることも減るかもしれない。


(坂巻さんならでは、だな)


彼みたいに誰とでも上手く渡り合える人だからこそ言えたこと。
私にはとても無理だ。


(一言だけでもお礼を言いたいな。でも、この前みたいにクールに遇らわれるのも嫌だし)


どうしようかな…と俯いた。
いじける時のクセが出て、髪の毛の先を捻った。


ブルブルとスマホが動いたのはその瞬間。
ビクッと背中を伸ばして前を見ると、上座のいる彼がフ…と微笑んでいる。



(え…)


直ぐに下を向いてスマホを取り出す。

起動させるとディスプレーにはメッセが入っていると表示されて、私は自分の目を疑いながらアプリを開いた。


『着替えたら駅チカの本屋に来て。待ってるから』


差出人は彼だ。
呆然としてディスプレーを見つめ、そのうち先に席を立って歩き出す人の足音が聞こえてきて……。


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