憧れの彼と、イイ仲になりたいんです!
言い渡されると、電話口の向こうから「ママ〜」と甘える声が聞こえてきた。
眠たそうにしている子供の声に、理香子が「はーい」と返事する。


「悪いけど私、子供を寝かせないといけないから。
また今度ゆっくり話そうね」

「うん、ありがとう、理香子」


お礼を言うと「何の」と言って電話が切れた。

私は直ぐに母親業に戻っただろう親友を思いながら、帰りに駅で見つけた花火大会のチラシを眺めた。



(この私が、あの人とこれに出掛ける…)


憧れの彼と、今夜もアイスを食べながら駅まで歩いたことを思った。

坂巻さんは話が上手くて、背が高くてイケメンで、私以外の誰とでも上手く渡り合える人。

そんな彼が私を誘って、日曜日に二人だけで行こうと言った……。



(信じられないけど……事実よね)


嬉しいけど、不安は消えない。

あんな大勢の人が集まる場所へ行って、知り合いの誰かに会ったりしたらどうしよう。


(大丈夫。会っても坂巻さんは会社の同僚だと言えばいい)


そう思った後で理香子の声が蘇った。


『それって恋でしょ。好きなんでしょ。その人のことが』


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