手をつなごう
「彩ちゃん、おかえり。」

あれから1ヶ月……

休日以外は皆勤賞の彼女は、オシャベリおばさんとすっかり仲良くなり

パンを選びながら相手をしてくれる。

「息子はつまらない」と、日々愚痴っているから…おばさんはご機嫌だ。

「私、今日でここに来るの……最後なんです。
今度は春に、大学を卒業してからお邪魔しますね。
その時はまた、よろしくお願いします。」

10月からの1ヶ月。

朝の「行ってきます。」と夕方の「ただいま!」を聞いていたから……

ただのお客さんのはずなのに………なんだか淋しい。

あの笑顔は、春までおあずけかぁ~

「でも…月に1回は、行事があるみたいで……
「覚えるために来なさい」って言われてるから……また直ぐにお邪魔しますけど。
一応、今日で区切りなので………色々ありがとうございました。」

変わらず律儀な彩ちゃんは、帰る前にそう挨拶してくれた。

名残惜しいオレは

「大学、忙しい?
もし暇だったら、バイトしに来てよ。」と誘っていた。

お袋は片眉をあげて、意味ありげに笑ったが………無視する。

「バイトかぁ~。良いですね!
1度大学に帰って、今後のスケジュールを確認しないと分からないですけど……
もし良かったら、雇ってもらえますか?
この辺りの地図が分かると………春から楽だと思うから。
甘えてもいいですか?」

ダメもとの誘いにのってくれ、びっくりする。

この春短大を卒業する彩ちゃんは、二十歳。

今年33歳になるオレとの年の差は………13。

ひとまわり以上離れている。

オレが中学入学の時…………生まれたんだなぁ~

そう思うと…………

特別な下心はないのに……やましいことをしてる気分になる。


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