腹黒上司が実は激甘だった件について。
夜は同期の奈穂子に誘われて、久しぶりに飲みに行くことになった。奈穂子とは部署は違うけど社内で一番仲がいい。元彼と別れた経緯も知っているし、退職願を提出したとき、たぶん飯田課長に口添えしたのも奈穂子だと思う。あの時一番最初に泣きついたのは奈穂子にだったから。だけど彼女は私にそんなこと言わないし、聞いたところで答えるような人じゃないけど、なんとなくそうじゃないかなと思っている。

とりあえずビールと枝豆で乾杯をする。奈穂子はグビグビっとビールをあおると、勢いよくジョッキをテーブルに置く。そして私を見てニヤリと笑った。

「最近日菜子噂になってるよ」
「え、何で?」
「王子様とよくランチ行ってるでしょ。羨ましいって女子が嘆いてるよ」

奈穂子は坪内さんを王子様と呼ぶ。菜穂子だけじゃない、社内の多くの女性陣の中で坪内さんの総称は王子様になっている。やっぱり王子は人気だな。

「ずっと同じ部署だったのに、最近になってやたら仲いいじゃない。何かあった?」
「別に。ただ仕事が兼務になって、王子の下についただけだよ」
「王子様が上司なの?」
「正確には課長と坪内さん両方が直属の上司。坪内さんに無理矢理ランチに連れてかれてるの」
「王子様は日菜子に興味あるんじゃないの?だって今まで特定の女の子とランチしてる話、聞いたことないよ」
「まさか?からかわれるのがオチだよ」
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