腹黒上司が実は激甘だった件について。
会議が終わって、ぐちゃぐちゃにメモしたノートを開いて溜め息が出る。これを今から議事録に整えていかなければいけない。

ただ議事録を作成するだけなら簡単だ。会議の流れを追うだけでいい。でもそれでは坪内さんは納得してくれない。今回の会議は、既存システムの再構築についてだ。システムの流れと言うのは文章だけでは伝わりにくい。仕様書を書くにしても図で表したりすることも多い。

「ついでだから流れ図も付けといて」

簡単にさらっと要求してくる。
あの、言わせてもらいますけど、私は無理矢理この会議に出席させられただけで、システム詳しくないんですけど~!と、文句を言いたかったのに、課長が優しい声で「どう?できそう?」とか聞いてくるもんだから、「頑張ります!」と調子に乗って返事をしてしまった。

つくづく課長には弱い私。でも頑張ったら課長に褒められるかもしれないし、なんなら坪内さんをギャフンと言わせてやるわ。そう意気込んだものの、ものの数分で躓いた。難しい用語がいっぱいで合っているかわからない。とりあえず出来るところまで作って、坪内さんに見てもらう。

「全然ダメだな」

私の作った流れ図は、即座に一蹴された。

「文章はまあいい。用語を少し直すだけだ。図はやり直し」

そう言って、坪内さんは手元のメモ用紙にペンを走らせる。

「いいか。まずデータベースはこの形で統一しろ。処理の流れは矢印で表すんだ。それから…」

流れるようなペンの動きに、見いってしまう。突き放すような言い方をしながらも、私にわかるように噛み砕いて丁寧に説明してくれる。言葉は雑なのに、ちょっぴりあたたかい。何度目かの添削ののち、ようやくOKが出た。たかが議事録を作成するだけでずいぶんと時間がかかってしまった。
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