古都奈良の和カフェあじさい堂花暦
「なんかすっごいメニューが豊富なんですね。これほんとに全部ひとりで出してるんですか」

「ああ。まあな。日替わりで出せないメニューとかはあるけどな。あ、今日は人手がないからパンケーキ系はなしで。メニューから抜いといて」

「あ、はい」

メニューはルーズリーフのようにバインダーに綴じる方式になっているので簡単に抜き差しが出来るようになっている。

私はパラパラとめくって、「抹茶」「きなこ」「豆乳」「黒蜜」などの心惹かれるワードの並んだパンケーキのページをメニュー表から外した。

「どれもすごく美味しそう……」

呟きながらページをめくっていく。

「今日のおすすめみたいなのはありますか? お客さんに聞かれることあると思うので」

「ああ。そやな。今日はこのへん。「本日のセット」の水羊羹と葛餅のセットと、あとはプリンとかババロアとか。あとはこっちの練り切りのセットメニュー」

「抹茶の葛プリンに、黒胡麻プリン、きなこに豆乳……。練り切りは紫陽花にヒマワリ、あ、朝顔もあるんですね。夏らしいな」

メニューはA4サイズの白い紙にメニューの名前と写真が印刷されたシンプルなものだった。

「これ、写真って店長が撮ったんですか?」

「店長?」

「でしょ?お店で名前で呼ぶのも変だし。それともオーナーとかの方がいいですか?シェフは変ですよね。 和風のお店だから大将? それもお寿司屋さんみたいか」

「て、店長でええよ。あ、写真。うん。俺がデジカメで撮ったやつやで」
「ふうん」

「何? 何か変?」

「いえ。変じゃないですけど……」

「けど?」

「いえ別に。それよりお店のなか見てきていいですか? テーブルの配置とか。物の置き場所とか一通り見ておきたいので。あ、席は全席禁煙でOKですよね? 電話は鳴ったら取って大丈夫ですか。予約って受け付けてます?」

「あ、ああ。ちょい待って。ええっとまずはこっちから見て貰おうかな」

「はい。あ、メモとペンお借り出来ますか?」
「ええと、じゃあこっちのこれ使って……」
「はい。お借りします」

飲食店のアルバイトなら大学時代に経験がある。(居酒屋さんだったけど……)

接客の仕事なら百貨店でしっかり叩き込まれたマナーと、外商部のお客様の多種多様なご要望に応えてきた経験がある。

祖母に知り合いのお店のお手伝いをいきなり押しつけられたと思ったからこそ、最初はオドオドしてしまったけれど、これは仕事だと割り切ったら俄然、しゃきっと背筋が伸びて、やりやすくなってきた。











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