硝子の花片
「そういうもんだよ。恋って。好きって知ったら意識しちゃうじゃん?…そういうのが可愛いんだよ、恋してる人って。」

平助くんは笑って言った。…何だろう、平助くんは恋愛相談が得意なのかな、って思う程的確なことを言う。

それにどこかの鬼副長(土方さん)みたいに女子に慣れてる訳じゃないから共感できる。←失礼

「ただいま戻りましたー。あれ?何話してたんですか?」

戻ってきた沖田さんがキョトンとした顔で聞いてきた。私の体温はまたまた上昇し始める。

「むふふ、総司にはナイショー!ねっ?桜夜。」

「えっ、あっ、うん。」

「むう、酷いなー!いつからそんな秘密主義になったんです?」

沖田さんは眉を下げて肩を落とした。

(ごめんなさい、今は何故かこの気持ちを外に出したくないんです…)

私は心の中で何度も謝罪した。

「あっ!こら、待ていっ!」

なんの前触れもなく、外から女性の悲鳴と男性の怒声が聞こえた。

外を見ると甘味処の前を風のように早く逃げ去る男がいた。それを追いかけるお奉行さん、その場に崩れる女性の姿が見えた。

「あー…ひったくりかぁ…。
藤堂さん、ちょっと行ってきます。桜夜さんを頼みます。」

そう言い残して沖田さんは颯爽と駆けていった。

「あちゃー…ま、新撰組も京の町の治安を守る組織だから手助けはしないとだけど、とにかく行動が早いよね、総司って。」

平助くんはいつの間にかひったくり犯に追い付きそうな沖田さんの背中を見て苦笑した。

私はその顔を苦笑いで見ながら、すぐに女性の元に駆けつけた。

「あ、こっちにも行動の早い人が…」

という平助くんの呟きを他所に私は女性に声を掛けた。

「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」

「ええ。うちは大丈夫や。少しあの男に押された反動でこけただけやから…。」

そう言って女性はふわっと笑った。
綺麗な方だなぁ。と思ってしまった。

「はい、どうぞ。」

沖田さんはいつの間にかひったくり犯から荷物を取って女性に渡していた。

ひったくり犯は沖田さんの左手に腕を捕まえられて暴れているが、沖田さんはビクともしない。
ビクとしたのは逆に私と女性の方だった…。

「ほんま、おおきに。助かりました。お名前、聞かしてもろても宜しいですか?」

「私は沖田です。」

私にも女性の目線が来たので自己紹介することにした。

「あ、私は睦月桜夜です。」

「へえ、沖田はんと桜夜はんどすか。どちらも綺麗な方どすね。私は白妙(しろたえ)と申します、この度はほんまおおきに。では、うちは急用がありますさかい、お先に失礼します。」

白妙さんは華やかな微笑みを浮かべ去った。

「ふふっ、桜夜さん、綺麗な方って言われてましたね。」

沖田さんはポカンとしている私にそう言い残して、ひったくり犯をお奉行さんに引渡しに行った。のだが。
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