硝子の花片
ふと沖田さんの白い長い手が伸びてきた。

そのまま私の背中に回される。

ギュッと強く抱き締められた。


「…よかった…ほんとに、桜夜さんだ…」

沖田さんは弱々しく呟いた。その声は震えている。

「何言ってるんですか、私は私ですよ?」

私は笑って言った。

「…だって、桜夜さん二年半も失踪してたんですから…どれだけ心配したか…」

「えっ」

二年半も…?

「…じゃあ今は何年ですか…?」

「…慶応三年の九月ですよ」

沖田さんは震えて掠れた声で言った。



二年半。

山南さんの死から二年半も経った。


あの日、私は光に包まれて忽然と消えたという。

探しても探しても見つからない。

…それはそうだろう。時代が違うのだから。


表向きは私は死んだ事にして新撰組は通常通り仕事をこなし、暇さえあれば平助くんと沖田さんは私を探しに出てくれたのだという。



「…あの後、私は本当にどうにかなりそうでしたよ。
山南さんも貴女もいなくなってしまうのだから。」

沖田さんは自分に対し嘲笑しながら言う。



あの後、季節外れの大雨が降って、沖田さんがずっと濡れていたのは、土方さんから聞いた。

まるで、沖田さんの代わりに空が泣いているようだった、と。



それから平助くんは伊東甲子太郎率いる御陵衛士というのに入って新撰組とは別でいるらしい。

沖田さんは少し体調が優れないみたいだけど風邪と言っていた。




私が現代の教室に飛んでいたほんの少しの時間は、こちらの時代では二年半の出来事で、その間に色んな事が変わってしまった。

もう、私の知ってる新撰組じゃなかった。




そして、時代も代わりつつあった。

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