はちみつドロップス
六限目。
「んー……」
「…………」
皇楽は今とても不機嫌だった。
何故なら、
「すー……」
授業開始十分にも関わらず。
さっきの授業も睡眠に費やしていたにも関わらず。
隣のハニーブラウンはまた、わざわざ自分の右肘のところで寝息を立ているからだ。
不機嫌に顔を歪めた皇楽は無言でハニーブラウンを右へ右へとぐいぐい押し戻し、
机の真ん中に出来た空間に二、三度ペンを滑らせた。
「ん……。なに……?」
ぐいぐいと頭を肘で押された天は、けだるそうに寝ぼけ眼で頭を持ち上げる。
そのままゆっくりと隣の皇楽へ顔を向ければ、
「こっから入んなよ。いいな」
さっき引いた真ん中の線を指先でなぞりながら、寝相の悪い天に強く釘を刺す。
「ちょとでも入ったらバイトのメンバーにバラすから」
天が女の子であることがわかれば、ホストクラブテイスト喫茶の看板に傷が付きかねない。
その為に正体を知る人間は最小限に抑えることになっていた。
絶好の弱みを盾に勝ち誇ったように笑う皇楽を、
「卑怯者!」
太刀打ち出来ない天は口惜しそうに睨みつけることしか出来ない。
これで明日からは快適に授業を受けられる。
悔しがる天を一瞥した皇楽はにんまりと嫌味な笑みを浮かべていた。