白に染まる、一滴の青。
「今、そろそろ終わろうかなと思ってたところです」
慧の一言に、本多は「そうか」と一言小さく呟くように返事をすると床に倒れ込んでいた誰かのイーゼルを持ち上げた。
「先生」
イーゼルを壁に立てかける本多に声をかけると、顔を上げた本多の視線は慧の方へとやってきた。
「ん? どうした」
「いや、あの……先生って好きな子とか学生時代にいましたか?」
慧の問いがあまりにも意外な内容だったのか、本多は目を丸くして驚いた後、優しく笑い皺をつくった。
「せやなぁ。こんなんあんまり人には話さへんけど、岩本ならええかな」
窓際に移り、そこにもたれかかると本多は少しだけ視線を上の方に向け間を置いた。
「実はな、大学生になるまで好きな女の子なんて出来たことなくて、ほんまにずっと絵だけ描いてきてん」
「大学生まで一人も、ですか?」
「そうそう。そもそも女の子にも興味なかったし、友達も少ない方やったからな」
意外やろ? と付け足した本多の言葉に、慧は大きく頷いた。