この言葉の、その先は、
その後も母から2,3度の連絡があり、事務的に事は進んでいった
お見合い相手は木村 成仁さん
歳は31歳で私より2つ歳上
叔父が務める会社で働く人で、叔父が言うには極めて優秀な人材とのこと
どんどんと現実味を増すお見合い
周りがやんややんや言っている中、私一人流されるまま、どこかフワフワしたような、現実味を帯びないまま
ふと、この人が自分が将来旦那と呼ぶ人になるのかもしれないとか
お見合いが成立したら結婚はすぐにしなきゃなんだよなって思い出しても、どこか現実味はなく
送られてきた相手方の顔写真を見てとりあえず悪そうな人じゃないから良しと見切りをつけ、母には自分のずっと行きたかった日本食の高級料亭を要望しておいた
その次の月の14日、日曜日
事は綺麗に進んでいってあっという間にその当日
いつもより化粧を丁寧にして、髪も綺麗にまとめて、同級生の結婚式のために買った紺のシンプルなドレスを身に纏った
鏡に映る自分の姿を見て、この見合いに乗り気じゃないとしても、やっぱり人にはよく見られたいんだなって妙に冷めた
場所は私が要望しておいた高級料亭だった
向こう方が気を使ってくれたのか
移動する車中、母に色々と相手の詳細なプロフィールやマナーについて言われた
その内容を聞きつつやはりどこか現実だと思えない自分
自分の足元でキラリと光るピンヒールに気後れした
料亭の駐車場へと入ると、丁度1台の真っ黒な車から黒いスーツを着た男性が降りてきた
あっ、顔写真の人だって気付くと、向こうもこっちに気付いてペコリと頭を下げた
切れ長な瞳にちょっと冷たそうな表情
なんだ、顔写真よりも怖そうだぞっていうのが第一印象
向こう方のご両親と成仁さん
仲介人の叔父と母と私
駐車場で軽く挨拶を交わし、料亭へと入った
料亭の入り口で靴を脱ぎ、廊下へと上がった際に困った事案
廊下に上がって靴を並べようとするものの、思ったよりも上がり框が高く、しかも腰の部分が締まったドレスのせいで腰がなかなか折れない
どうにか靴に腕を伸ばすも届かず1人慌てていると、ふいに視界の中に黒いスーツを纏った腕が入り込み、すっと私のピンヒールを並べ直してくれた
驚いて顔を上げると、成仁さんがあの顔写真と同じ顔をして笑っていた