この言葉の、その先は、


特に何処に行こうとの会話もなく、5分ほど歩いて辿り着いたのは半地下になっているカフェ

先に階段を降りてドアを開けてくれた成仁さんに頭を下げつつ店内へと入った

打ちっ放しのコンクリートにジャズだかクラシックだかが流れるモダンな雰囲気

店内にお客さんはなく、立派な髭のウェイターが『らっしゃいっ』って居酒屋みたいな挨拶をしてきたから面白かった


テーブル席が3つにカウンター席が4つ

成仁さんはウェイターに小さく頭を下げ、狭い店内を慣れたように歩き一番奥のテーブル席へと向かった

私も特に何も言わずにその後を追う


椅子を引いて、私に座るように促す

さっきからこういうことが上手いなーと思いながら素直にその椅子に座った


向かいに座った成仁さんはスーツのジャケットを脱ぎつつ

「ここのコーヒーは美味しいですよ」

そう私の目を見ずに言った


「オススメはメロンソーダだと」


テーブルの上に置かれているメニューに目をやると、デカデカとオススメと書かれているメロンソーダ

それを指差して言うと、成仁さんはフッと吹き出した


「ああ言えばこう言う」


「はい?」


「いいえ、あの料亭は貴方が選んだでしょう?だから、これくらい私の我儘でも良いかなと思ったんですが」


ようやく私と目を合わせた成仁さんはすごく優しく笑っていた



結局テーブルの上にはコーヒー1杯にメロンソーダが1つ


相変わらず続かない会話と、なかなかコーヒーに口を付けない成仁さん

彼がコーヒーを飲まない分、私がメロンソーダに口を付けづらいではないかって思ってると成仁さんは下げていた視線をバッと上げた

驚いて少し仰け反ると、メロンソーダに浮かぶ氷が音を立てた


「すみません、女性には慣れないので」


「そうなんですか?」


「え?」


「あ、いや。だってさっきのドアだったり椅子だったり…靴だったり。すごく……手馴れていたと言うか」


そこで彼が、は?って顔をした

あー彼は私が思っているよりもずっと若いんだって

そして、緩まそうとしないボタンは彼の緊張の現れなんだって

彼は私が思ったよりもずっとこっちに近いのかもしれない


「あんなのドラマだの見てたら出来ますよ」


あっけらかんと言う彼に、今度は私が吹き出す番


まだ良い人ってラベルは貼れないけど、悪い人じゃないってメモがくっ付いた
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